肘の症状とは
肘は、上腕骨と前腕の2本の骨(橈骨と尺骨)からなる関節で、日常的な動作の中で曲げ伸ばしや回内・回外といった複雑な動きに関わる非常に重要な部位です。
肘関節は「腕を使う」あらゆる動作に関与しており、手を顔の高さまで持ち上げる、荷物を持ち上げる、ドアノブを回す、パソコンを操作する――といった動きの基盤を支えています。
構造的には、関節の骨だけでなく、多くの靱帯、筋肉、腱、神経が肘を通過するため、これらが損傷・炎症・圧迫を受けることで、痛み・動きの制限・しびれなどのさまざまな症状が現れます。
スポーツ障害から加齢変化、神経圧迫による慢性症状まで、肘のトラブルは幅広く、症状が軽くても放置することで進行してしまうことがあります。
当院では、正確な診断をもとに、薬物療法・注射・装具療法・運動器リハビリテーションなどを組み合わせ、肘の機能の最大限の回復を目指した治療を行います。
主な肘の疾患
上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)
肘の内側にある上腕骨内側上顆という部分に炎症が起こる状態で、ゴルフのスイング動作のように手首を手のひら側に曲げる動作を繰り返すことで発症します。
実際にはゴルフ以外でも、テニスや野球などのスポーツ、重たい荷物の持ち運び、PC作業などでも発症することがあります。
症状は、肘の内側の痛み、握力の低下、物を持ち上げる際の痛みや不快感などです。
治療としては、まず原因となる動作を控えて安静にするようにします。
痛みや炎症の改善では、物理療法や消炎鎮痛、ステロイドなど局所注射による治療を行っていきます。
動作を控えることが難しい場合では、ストレッチや筋力トレーニングなどを行い、症状の発生を予防していきます。
スポーツをされる方には、フォームの改善指導やテーピング・サポーターの活用も行っていきます。
上腕骨外側上顆炎(テニス肘)
上腕骨外側上顆炎は、肘の外側にある上腕骨外側上顆という部分に付着する筋腱の炎症を指し、手首をそらす動作を繰り返すことで、肘に負担がかかり発症します。
テニス愛好者、特に中年以降にテニスを始めた方に多いため、「テニス肘」とも呼ばれます。
主にバックハンドによるストロークを重ねることが原因となりますが、実際には手首をよく使う料理や掃除などの家事、パソコン業務、お子様を抱っこするなどの動作でも発症しやすい疾患です。
症状は、肘の外側から前腕にかけての痛みが生じることです。
物を持ち上げる・タオルを絞る・ドアノブを回すなどの動作で、症状が強く現れることが特徴です。
治療としては、痛みの程度に合わせて、湿布などの外用薬や、局所麻酔薬・ステロイド薬の注射による薬物療法のほか、電気刺激療法や超音波療法などの物理療法も行っていきます。
併せて、リハビリを実施することは症状の緩和に有効です。
リハビリでは、手首のストレッチ、筋力トレーニングなどは、筋肉を柔軟にしたり、肘への負担を軽くしたりすることで、痛みの軽減につながります。
肘内障(ちゅうないしょう)
肘内障とは、小さなお子様の腕を強く引っ張った際に起こる「橈骨頭亜脱臼(とうこつとうあだっきゅう)」のことを指し、「肘が抜けた」と表現されることもあります。
2〜6歳の小さなお子様に多く、腕を急に引かれた際に靱帯がずれて関節がずれることで発症します。
7歳を過ぎた頃になると、肘の骨を固定する靭帯(輪状靭帯)が発達することで、肘内障が起こりにくくなります。
特徴的な症状は、腕を動かさなくなる、肘を押さえる、泣き止まないなどで、見た目に腫れや変形がなくても、脱臼している可能性があります。
治療としては、軽い整復操作で関節を元に戻すことができ、多くの場合、処置後すぐに動かし始められます。
基本的にはリハビリは不要ですが、繰り返し発症する場合は、予防のための抱き方や動かし方の指導を行うこともあります。
変形性肘関節症
加齢や外傷の後遺症、使いすぎスポーツや仕事での肘関節の酷使などにより、肘の関節軟骨がすり減り、関節の変形や運動制限、痛みが起こる状態です。
関節に骨棘(こつきょく)と呼ばれる過剰な骨の突起ができ、関節の動きを制限してしまいます。
さらに進行すると骨棘が折れて関節内の遊離体ができ、それが引っかかってロッキングを引き起こすこともあります。
肘を伸ばしにくい・曲げにくい、力が入らない、重だるさを感じるといった症状が現れ、食事の時に口に手が届かないなど、日常生活に大きく支障をきたしてしまうこともあります。
治療にあたっては、口に手が届き、トイレの処理もできるなど、日常生活に支障がない状態であれば、保存療法を選択します。
まず装具などを用いて患部を固定し、安静を保つようにします。
痛みに対しては、消炎鎮痛薬や関節内への注射などの薬物治療を行い、温熱療法などの物理療法を行います。
さらに筋力トレーニングやストレッチなどの運動療法で筋肉の柔軟性と関節安定性を高め、可動域の確保などを行っていきます。
日常生活に支障をきたすようであれば、骨棘などを取り除く関節鏡手術や、人工関節置換術も検討します。
上腕骨離断性骨軟骨炎(OCD)
上腕骨離断性骨軟骨炎は、主に成長期の野球をする少年に多く発症する肘のスポーツ障害で、主に上腕骨小頭の軟骨下の骨が、繰り返し外力がかかることによって剥がれてしまうものです。
血流障害により軟骨下の骨が壊死することにより発症すると考えられており、「投げると痛む」「肘を伸ばしきれない」「引っかかる感じがある」といった症状が特徴です。
安静にすることで発育期であれば自然治癒することもありますが、中学生くらいになると自然治癒が難しくなる傾向にあります。
剥がれた部分がすぐに骨から離れることはありませんが、放置していると遊離し、関節ねずみ(関節内遊離体)と呼ばれるものとなって関節内を動き、将来にわたり関節機能に影響を及ぼす場合もあります。
治療としては、X線検査などで病変の状態を確認し、早期であれば安静・投球禁止の上でリハビリにより治癒を目指します。
保存療法で改善がみられない場合は、手術により剥がれた部分の固定や遊離体の除去などを行うことを検討します。
肘部管症候群
肘の内側にある「肘部管」という神経の通り道で、尺骨神経が圧迫されて起こる神経障害です。
原因としては、加齢、肘の酷使、肘の骨折などの外傷による骨の変形、腫瘍(ガングリオン)などが挙げられます。
小指と薬指のしびれ、麻痺、握力低下、細かい動作の困難さ(ボタンがかけづらいなど)がみられ、進行すると「手の筋肉がやせてきたり、小指や薬指が変形したりします。
治療としては、検査で神経圧迫の程度を評価し、保存療法または手術を検討します。
軽度の場合は保存療法として、安静を保ち、痛みなどの症状に対しては消炎鎮痛剤(NSAIDs)や、神経修復を促進するとされるビタミンB12の内服などの薬物治療を行います。
保存療法では改善が期待できない場合は、尺骨神経を圧迫している靱帯の切離や、ガングリオンの切除といった手術を検討します。
肘内側側副靱帯損傷
肘内側側副靱帯損傷は、野球肘と呼ばれるもののひとつで、肘の内側にある靱帯(内側側副靱帯)が伸びたり、部分的に断裂したりしてしまう障害です。
野球の投手が行う高速・高回数の投球動作によって、肘に大きなストレスがかかることが原因となるほか、外傷による肘関節脱臼が原因となることもあります。
症状は、投球時の肘の内側の痛みや、不安定性(特に外傷の場合)、力が入りづらいなどで、悪化すると靱帯の完全断裂に至ります。
治療としては画像検査やストレステストなどを通じて診断を行い、保存療法または手術を検討します。
リハビリでは、肩・肩甲帯・体幹の柔軟性と連動性の改善、インナーマッスルの強化、正しいボールの握り方や肘への負担の少ない投球動作の習得などを行っていきます。
投球再開には段階的な投球プログラムを取り入れ、術後の場合も術後数カ月にわたり可動域訓練→筋力再建→実技復帰という長期的な計画に基づいたリハビリが必要です。
こうした運動療法を行っても症状が改善されない場合は手術を検討します。
肘頭疲労骨折
繰り返される外力(特に投球や体重支持動作)によって、肘の先端部にある肘頭という部分に小さな亀裂(疲労骨折)が生じる状態で、野球肘と呼ばれるもののひとつです。
スポーツ選手(投擲系、体操競技、ウエイトリフティング等)に多く、「肘の後ろが痛む」「伸ばすと痛い」「腫れている」などの症状が出ます。
治療に際しては、骨折が骨癒合の期待できる部位や範囲であれば、保存療法を選択します。
痛みが軽減したら、肘関節の可動域訓練を開始し、さらに肘関節にかかる負担に対抗する筋肉を強化するための筋力トレーニングを行います。
超音波療法などの物理療法を並行して行う場合もあります。