肩の症状とは
肩は、腕を上下・前後・回旋と大きく動かすための関節で、非常に自由度の高い構造をしています。
主に「肩甲骨」と「上腕骨」から成る肩関節に加え、肩鎖関節、胸鎖関節、肩甲胸郭関節といった複数の関節が連動して働くことで、滑らかな運動が可能になります。
これを支えるのが、腱板(けんばん)と呼ばれる複数の筋肉や腱、靱帯、関節包などの軟部組織です。
その一方で、これほど複雑で繊細な構造を持つがゆえに、日常生活の中でも肩には大きな負担がかかりやすく、肩の痛みや運動制限などの症状が起こりやすい部位でもあります。
特に加齢に伴う筋腱の変性や、スポーツや仕事による使いすぎ(オーバーユース)、外傷などが原因となり、慢性的な肩の悩みに発展することも少なくありません。
肩の症状は、「動かすと痛む」「夜間に痛みで目が覚める」「腕が上がらない」「動かすとゴリゴリ音がする」「力が入りにくい」などさまざまで、放置すると関節が固まってしまうこともあります。
当院では、原因となる疾患を見極めたうえで、適切なリハビリや治療を行い、痛みの軽減や機能の回復を図ります。
主な肩の疾患
野球肩(投球障害肩)
一般的に言われる野球肩とは、投球障害肩とも呼ばれるもので、特に投球のような腕を上に上げる動作に伴って、肩に痛みや違和感が生じるスポーツ障害の総称です。
主に10代の野球選手に多く見られますが、バレーボール、ハンドボール、テニス、水泳など、腕を頭上へ上げるオーバーヘッド動作を繰り返すスポーツの選手に多く発症します。
初期では「投げるときに少し痛む」といった軽い症状ですが、悪化すると可動域が制限されたり、脱力感を覚えたりするようになります。
原因は、繰り返しの動作によって肩関節周囲の筋肉や腱、関節唇、骨、軟骨などに過度な負荷がかかり、微細損傷が蓄積することによります。
投球障害肩の原因となる疾患名としては、SLAP損傷や腱板疎部損傷、それによって引き起こされるインターナルインピンジメント、上腕二頭筋長頭腱炎、上腕骨近位骨端線離開(リトルリーグショルダー)などがあります。
当院では、肩の動きや筋力の評価、画像検査などを行い、肩の構造や機能の変化を正確に把握します。
治療では、まず安静を保ちつつ炎症のコントロールを行い、段階的な運動療法が中心となります。
特にリハビリでは、肩甲骨周囲筋の柔軟性と安定性を高めるストレッチ・可動域訓練などに加え、インナーマッスル(腱板筋群)の筋力強化が重要になります。
また、投球フォームの見直しや、再発予防のための全身の動作連動の改善(スローイングリハビリテーション)にも取り組みます。
運動療法を行っても症状が改善しない場合には、手術療法を検討する場合もあります。
五十肩・四十肩(肩関節周囲炎)
よく「五十肩」や「四十肩」と言われる症状は、正式には「肩関節周囲炎」と呼ばれるもので、痛みや運動制限が生じている状態を指します。
シャツを着る、洗髪をする、エプロンの紐を結ぶといった日常動作にも支障が出るようになります。
原因は加齢により、肩関節の周囲にある腱板や関節包の変性、血流低下などによるもので、多くは明確な外傷などがなく、40〜60代で自然に発症することが多いのが特徴です。
最初は肩を動かす時の痛みとして現れ、進行すると夜間の就寝中にもズキズキと痛むようになります。
放置していると関節が癒着し、可動域が制限され、腕を上げたり後ろに回したりする動作が困難になる「凍結肩」の状態になることもあります。
初期は温熱療法やアイシングを取り入れて炎症を抑え、痛みが軽減した段階で、肩の動きを取り戻すためのストレッチや関節モビライゼーションを行います。
肩甲骨の動きを改善する訓練や、筋力強化も組み合わせて、日常生活動作の改善を目指します。
肩腱板断裂(損傷)
肩の腱板は、肩関節を安定させて滑らかに動かすための4つの筋肉(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)からなる重要な組織です。
この腱板が部分的または完全に断裂すると、腕を挙げるときに痛む、力が入らない、肩を上げる際ジョリジョリといった軋轢音が聞こえる、夜間に激しい痛みがあるといった症状が出現します。
主な原因は加齢に伴って腱板自体が脆弱になることで、特に50歳以上の方に多くみられ、発症年齢のピークは60代となっています。
そのほか野球などのスポーツや、転倒などによる外傷をきっかけに発症することもありますが、多くは日常的な動作の中で徐々に損傷が進行する「非外傷性断裂」です。
肩腱板断裂では多くの場合が部分断裂で、腱板が残っていますので、この残っている腱板の機能を復活させるリハビリ(腱板機能訓練)は有効です。
当院では様々な器具も使用しつつ、各種トレーニングを行っていきます。
石灰沈着性腱板炎
肩の腱板内に「石灰(リン酸カルシウム結晶)」が沈着し、急激な炎症を引き起こす病気です。
何の前触れもなく突然、肩に激痛が走り、腕を少し動かすだけで耐えがたい痛みを感じ、可動域も制限されるのが特徴です。
痛みは夜間に特に強く、眠れないほどになることもあります。
30~50代の女性に多くみられ、明確な原因は不明ですが、腱板への微小な損傷や血流障害が関与していると考えられています。
治療としては、急性期は強い痛みが出るため、NSAIDsなどの消炎鎮痛薬の内服や局所麻酔薬の注射といった薬物療法が主体となります。
症状が落ち着いたのちには関節の拘縮を防ぐためのリハビリによる可動域訓練が重要になります。
可動域訓練では、肩甲骨・肩関節の動きを取り戻すストレッチや、低負荷からの筋力トレーニングなどの運動療法を段階的に行っていきます。
変形性肩関節症
加齢、スポーツや仕事などによる長年の酷使等によって、肩関節の軟骨がすり減り、関節の変形や摩耗が進行する病気です。
変形性関節症というと、膝や股関節に多い印象がありますが、肩にも同様に起こる可能性があります。
加齢や酷使以外にも、肩腱板断裂や上腕骨頭壊死、関節リウマチ、上腕骨近位端骨折などが原因で発症することもあり、その場合、二次性変形性肩関節症と呼ばれます。
症状としては、肩の痛みや動かしにくさが生じますが、痛みは肩を動かしたときだけでなく、安静時や夜間に現れることもあります。
重症例では、関節の可動域が大きく制限され、日常生活に支障をきたす場合もあります。
肩関節脱臼
肩関節脱臼は、スポーツや転倒などで強い外力が加わることにより、上腕骨の骨頭が関節の受け皿(関節窩)から外れてしまう状態です。
激しい痛みとともに、肩の変形、腕を動かせないなどの症状が出ます。
若年層では柔道やラグビーなどコンタクトスポーツによる脱臼が多く、10代で発症すると、再発しやすくなるのが特徴です。
関節唇や靱帯が損傷されることにより、何度も脱臼を繰り返す「反復性肩関節脱臼」に移行することもあるため注意が必要です。
治療ではまず徒手整復を行い、関節を正しい位置に戻したうえで、固定やリハビリを進めていきます。
初めて脱臼した際は、しっかりと整復し、2~3週間ほど装具によって肩関節を固定し、安静にすることが大切です。
その後、関節の安定性を損なわないよう注意しながら、関節可動域訓練や、段階的に肩関節周囲筋(特に腱板や三角筋)の筋力強化訓練といったリハビリを行っていきます。
再発を繰り返す場合や、関節構造に損傷がある場合は、関節鏡を用いた修復術などの手術を提案することがあります。
上腕二頭筋長頭腱炎
上腕二頭筋のうち長頭腱は、いわゆる「力こぶ」ができる部分の筋肉で、肩関節に付着しており、使いすぎや加齢によって炎症を起こして肩の痛みを発症することがあります。
特徴的な症状は、肩の前方にズキズキするような痛みが出ること、腕を上げたときや手を後ろに回したときの痛みです。
野球肩の原因ともなる疾患で、野球、テニス、水泳など、腕を振り上げるスポーツや、重いものを持ち上げる作業などによる酷使が原因となります。
さらに加齢によって引き起こされる肩関節周囲炎のひとつであり、四十肩・五十肩の症状を現すものです。
リハビリは、初期段階では各種物理療法で炎症を抑え、さらに状態をみて、上腕二頭筋や肩前方のストレッチや、肩甲骨と上腕の協調運動の回復訓練を実施します。
また腱への過剰なストレスを軽減する目的で、姿勢やフォームの指導、負荷をかけすぎない筋力トレーニングを段階的に行っていきます。