手の症状とは

手イメージ画像

手は、私たちの日常生活において細かな動作から力仕事まで幅広い役割を担っています。
整形外科的に見ると、手は多数の小さな骨(手根骨・中手骨・指骨)とそれらをつなぐ関節、靭帯、筋肉、腱、血管、そして神経で構成され、非常に精巧な構造をしています。
こうした複雑な構造かつ生活や仕事で酷使されることが多いため、使い過ぎや加齢変化、外傷が原因で痛みやしびれ、動かしにくさ、変形などの症状が現れやすい部位でもあります。

手の症状には、指の動きが悪い、力が入らない、手首が痛む、しびれる、指が曲がったまま伸びない、といったものがあります。
これらの症状の背景には、腱や神経の通り道の狭窄、骨折、関節の変形、炎症、腫瘍などさまざまな病気が隠れている可能性があります。

当院では、詳しい診察や画像検査などを通じて原因を特定し、外用薬や内服薬、注射薬などによる薬物療法、また物理療法や装具療法、運動療法など、患者様それぞれに合わせた、オーダーメイドのリハビリテーションによる治療を行っていきます。

主な手の疾患

手根管症候群

手根管症候群は、手首にある「手根管」という狭いトンネル状の空間で、正中神経と呼ばれる神経が圧迫されることで発症する疾患です。
症状は、親指から中指にかけてのしびれ・痛み、朝の起床時に起こるこわばり・感覚低下などがあります。
進行すると親指の付け根の筋肉がやせ、細かい作業がしづらくなる場合もあります。

原因は明確でない部分もありますが、女性に多く、妊娠・更年期でよくみられることから、女性ホルモンが関与していると考えられています。
そのほか、スポーツや仕事での手の酷使、骨折などの外傷、糖尿病による慢性的な炎症、人工透析、腫瘍や腫瘤などが原因となることもあります。

治療にあたっては、手の感覚検査や神経伝導検査を行います。
まず安静にすることが重要で、状態に応じて、就寝時に装具による固定を行うなどする場合があります。
また消炎鎮痛薬(NSAIDs)やステロイド注射などの薬物治療によって炎症を抑えます。
リハビリでは、痛みを緩和する物理療法、さらにストレッチなどの運動療法を行い、神経の圧迫の軽減などを目指します。
保存的治療で改善しない場合は、手根管開放術という手術が検討されます。

橈骨遠位端骨折

手首と肘の間にある橈骨(とうこつ)の先端(手首側)が折れる骨折で、転倒して手をついた際などに起こりやすい骨折です。
高齢の女性に多く、骨粗鬆症であることが大きな要因となります。
ほかに交通事故などによる外傷でも発症することがあります。
発症すると、主に手首の腫れ、変形、痛み、動かしにくさなどの症状が現れます。

治療としては、折れた骨の整復を行い、骨のずれの程度によって保存療法(ギプス固定)または手術療法(プレート固定など)を選択します。

リハビリは極めて重要で、早期(固定が順調であれば数日後)からの指・肘・肩の可動域訓練を行います。
固定が解除になりましたら、手関節のストレッチと筋力トレーニングを行っていきます。
関節のこわばりや腫れ、手指の浮腫管理を含め、日常動作(箸・書字・整容動作)の回復訓練も丁寧に行います。

キーンベック病

手首の小さな骨(月状骨)が血流障害により壊死し、手首の痛みや動かしにくさを生じる疾患です。
月状骨は前腕と手指の間に位置し、周囲を関節に囲まれているため、血流が悪くなりやすいことが原因と考えられています。

特にスポーツや手を酷使する仕事を行う20〜40代の男性に多く、多くの場合、利き手側に発症します。
手を動かした後に痛みが強まることがあり、進行すると握力の低下や手首の可動域の制限がみられるようになり、安静時にも痛みが生じるようになります。

初期は安静にし、消炎鎮痛薬(NSAIDs)による薬物治療や装具療法による保存的治療が行われますが、進行すると骨の崩壊や関節変形が進み、手術が必要になることもあります。
リハビリでは、装具を装着していても可能な手指や肘・肩の可動域維持訓練を継続し、疼痛緩和後には手関節の可動域訓練や把握・回内外訓練を行います。
筋力低下や日常生活の支障を防ぐため、段階的に負荷を調整したトレーニングを実施します。

ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)

手首の親指側にある腱(短母指伸筋腱と長母指外転筋腱)と、その腱が通る腱鞘と呼ばれるトンネルの間で摩擦が起きて炎症を起こす疾患です。
腱の動きが制限されてスムーズにいかなくなり、親指を動かすと手首の親指側が痛い、腫れる、力が入らない、押すと痛いといった症状が現れます。

圧倒的に女性に多く、更年期によるホルモン分泌変動の影響と家事による手の酷使などが原因と考えられています。
また、スマホ・パソコンを長時間使う方にも多くみられます。

治療は安静にして親指をなるべく使わないようにし、場合によってはサポーター(装具)による固定、消炎鎮痛剤の外用薬の使用、温熱などの物理療法などによって症状は軽快します。
痛みが強い場合は、局所麻酔薬やステロイド薬を腱鞘内に注射することで、症状の多くは治まりますが、繰り返していると腱の断裂や感染症のリスクが高まるため、医師が判断のもと、慎重に行います。

こうした保存療法で症状が改善しない場合は、腱鞘を切開して炎症を取り除く手術療法を検討します。

ガングリオン

関節や腱の周囲にできるゼリー状の嚢胞で、手首の甲側に多く発生します。
大きさは米粒大~ピンポン玉くらいまでと様々で、硬さも個人差があります。
見た目の膨らみのほか、神経を圧迫して痛みやしびれが出ることもあります。
内部に詰まっているものの主成分は関節液などですが、原因は不明となっています。

自然と治癒することも多く、日常生活に支障がないようであれば、経過観察となります。
痛みやしびれなどの症状が強く出ている、見た目が気になるということであれば、主に内容物を針で吸引する処置(穿刺)を行います。
再発を繰り返す場合には手術を行うこともあります。

ばね指(弾発指)

指の腱が通るトンネルともいうべき腱鞘の部分で炎症が起き、肥厚化・肥大化して、腱の動きがスムーズにいかなくなる疾患です。
それによって、指を曲げた後に伸ばす際、引っかかったり、バネ現象が起こったりします。
中指・親指に多く、特にエストロゲン分泌が大きく減る妊娠出産期や中年以降の女性に多発しますが、手指を酷使する仕事やスポーツをする方にも多く発症します。
症状が進むと、指が完全に伸びなくなる場合もあります。

主な原因は、指の使いすぎや加齢による腱鞘の肥厚、糖尿病などの基礎疾患です。
パソコンのキーボード操作や楽器の演奏などで指を酷使する方によくみられるほか、関節リウマチの方や人工透析を受けている方の発症リスクも高くなっています。

治療は、なるべく指を使わないよう安静にして、消炎鎮痛薬の外用薬により痛みや炎症を抑えていきます。
ただし装具で固定してしまうと関節が拘縮する危険があるため、通常、装具療法は行いません。
痛みが強く、生活にも支障をきたしている場合は、腱鞘内へのステロイド注射を行います。
ただし何度も行うと腱断裂を引き起こす可能性があることが報告されているため、再発を繰り返す場合は腱鞘切開術が選択されます。

母指CM関節症

親指の付け根にあるCM関節(手根中手関節)が加齢や長年の手の酷使により、すり減って痛みや動作制限を引き起こす疾患です。
つまむ、開ける、ひねるといった動作で痛みが出やすく、進行すると関節が変形して腫れたり、亜脱臼を起こしたりして、見た目にも膨らみが目立つようになります。
特に更年期以降の女性に多いことから、女性ホルモンが関わっているとも考えられています。

診断にあたっては触診やX線検査などを行い、ドケルバン病や関節リウマチなど、別の疾患ではないかどうかを確認します。

治療は、消炎鎮痛薬の外用薬で痛みや炎症を抑えますが、痛みが強い場合は母指から手首にかけての部分を固定する装具療法を行います。

それでも改善せず、日常生活に支障をきたしている場合は、ステロイド薬の関節内注射を行います。
さらに効果が得られない場合は、変形した骨の一部を、切除し靭帯を再建する手術を検討する場合があります。

ヘバーデン結節

指の第1関節(DIP関節)が腫れて痛んだり、変形したりする変形性関節症の一種です。
主に人差指から小指にかけて発症しますが、母指に発症する場合もあります。
第1関節の背側に2つのコブ(結節)ができるのが特徴です。
原因はまだよくわかっていませんが、手指を酷使されている方や、40歳代以降の女性に多く発症することが知られています。

当初は第1関節に腫れが生じ、指先に力を入れると痛みがあります。
進行すると何もしていないときにも痛みが現れます。
さらに進行すると、関節の変形が引き起こされ、粘液嚢腫(ミューカスシスト)というものが発生する場合もあります。

関節リウマチを疑って受診される方も多いようですが、関節リウマチでは第1関節より第2関節に症状が出やすいという違いがあります。

診断にあたっては、この関節リウマチや乾癬性関節炎など、症状が似ている別の疾患と見分けるため、各種の診察や検査を行います。

治療としては、日常生活に支障がなければ、安静にして経過観察していくことで、痛みが治まる場合があります。
テーピングや装具で固定することで、痛みが和らぐ場合もあります。
ただし、腫れや変形は残ってしまうことがあります。
痛みが強い場合は消炎鎮痛薬の外用薬や、ステロイド薬の関節注射などによる薬物療法を行います。

こうした保存療法で症状改善せず、日常生活に支障をきたす場合には手術を検討します。
手術法としては、第1関節を軽く曲げた状態で固定するものや、結節を切除するものなどがあります。

マレット変形

突き指や外傷などで指先の伸筋腱や骨が損傷し、指の第1関節が自力では伸ばせなくなった状態です。
腫れや痛みも生じる場合があります。
見た目が木槌(マレット)に似ていることからこの名があり、槌指とも呼ばれています。
野球やバレーボール、バスケットボール、ハンドボールといった球技でよくみられますが、日常生活でのちょっとした動作でも起こることがあります。

マレット変形には2つのタイプがあります。
ひとつは腱性マレット指で、これは伸筋腱が断裂して発症するものです。
もうひとつは骨性マレット指で、これは伸筋腱が断裂していないものの、伸筋腱がついている骨が関節内骨折を起こし発症するもので、特に腫れや痛みが強くなります。
治療にあたっては、このどちらであるかを診断することが重要で、X線などによって、検査を行います。

治療は、腱性マレット指では装具などで固定し、安静にしておく保存療法が行われます。
骨性マレット指では、脱臼をしていなければ保存療法となる場合があります。
脱臼している場合は、手術による整復固定を行います。

デュピュイトラン拘縮

手のひらの手掌腱膜が肥厚・拘縮して、指が徐々に曲がったまま伸びなくなる疾患です。
原因は現在のところ明らかではありませんが、高齢の男性に多く、50代以降の男性や糖尿病の方、アルコール常用者に多くみられます。
また手掌腱膜に対し、小さな外傷を繰り返すことで生じるのではないかという説もあります。

発症すると手のひらに小さな硬結(こぶ)ができて、その部分がつっぱることで指を伸ばしにくくなります。
特に小指や薬指に出ることが多く、また両手でみられることも多くなっています。
通常は痛みを伴いませんが、徐々に進行して指が曲がったままの状態になってしまい、日常生活に支障をきたすようになります。

診断にあたっては、多くが視診で確認できますが、X線検査などを行い、関節リウマチの有無等を確認する場合もあります。
治療は進行度によって異なりますが、軽症で日常生活に支障がないようであれば、ストレッチなどを行いつつ、経過観察をしていきます。
ただし、根治のためには手術するしかないため、症状が進行し、日常生活に支障をきたすようであれば、腱膜切除の手術を検討します。
手術後はしっかりと運動療法や、装具療法(夜間伸展位固定)などのリハビリを行うことが大切です。