膝の症状とは
膝は、太ももの骨(大腿骨)、すねの骨(脛骨)、お皿の骨(膝蓋骨)から構成され、日常生活の中で立つ・歩く・座る・階段を上り下りするといった多くの動作に関与しています。
関節の内部には半月板や靭帯、軟骨、関節包、滑液といった構造が複雑に関わり合い、膝の安定性とスムーズな動きを保っています。
しかし、膝関節は体重が集中し、酷使されがちな関節であるため、加齢やスポーツ、外傷、肥満などの影響を受けやすく、痛み、腫れ、動かしにくさ、不安定感といった症状が現れやすい部位でもあります。
進行すると歩行困難や正座ができない、階段の昇降がつらいなど、生活の質に大きく影響することがあります。
当院では、膝の構造と機能を詳細に評価し、X線・超音波などを用いた診断をもとに、薬物療法・注射療法・リハビリテーション・装具療法・必要に応じた手術まで、患者様の状態に応じた治療を行います。
主な膝の疾患
変形性膝関節症
加齢や長年の負荷の蓄積により、膝関節の軟骨がすり減って関節に炎症や変形が生じる病気です。
初期は立ち上がり時やしゃがんだ時、歩き始めになどに膝の内側に痛みを感じますが、動いているうちに痛みが軽減する傾向にあります。
しかし進行すると膝に水が溜まるなどして階段の上り下りや正座がしにくくなります。
さらに末期になるとO脚変形などが進行し、膝の曲げ伸ばしの制限が出て、歩行そのものが困難になります。
高齢者、特に女性に多く、肥満による荷重や膝の酷使、もともとの骨格的な要因(O脚等)などが発症の原因になると考えられています。
このほか、関節リウマチ、膝の靭帯や半月板の損傷、化膿性股関節炎など、要因が特定される二次性の変形性膝関節症もあります。
すり減った軟骨は元に戻らないため、治療としては膝関節に負担がかからないようにし、症状を進行させないことが重要になります。
肥満の場合は生活習慣を改善して減量を心がけ、運動療法によって大腿四頭筋やハムストリングスなど膝関節周囲の筋力を増強するようにします。
負担を軽減するよう、膝サポーターや足底板などによる装具療法を行う場合もあります。
痛みなどの症状に対しては、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などによる薬物療法を行います。
さらに関節内へのヒアルロン酸などの注射も選択されます。
こうした保存治療で症状が改善せず、日常生活に支障をきたすようであれば、関節鏡手術、高位脛骨骨切り術、人工膝関節置換術といった手術療法が検討されます。
半月板損傷
半月板は膝関節内にあるクッションのような繊維軟骨で、C型の形をしており、衝撃の吸収・分散や、関節の安定化に重要な役割を果たしています。
この組織が何らかの原因で損傷してしまうのが半月板損傷で、若年層から高齢者まで幅広くみられるものです。
半月板を損傷してしまうと、膝を曲げ伸ばしする際に痛みを生じたり、引っかかり感を覚えたりします。
また重症になると膝に水が溜まることや、ロッキング(急に膝が動かなくなる)という状態が引き起こされるなどして、腫れ、可動域の制限が生じます。
スポーツ中の外傷として発症することが多く、急に捻るなど膝に負担がかかるサッカーやスキーなどの競技でよくみられます。
膝を捻った際に靭帯も損傷する場合が少なくなく、半月板損傷と併発ケースが多くなっています。
日常の転倒などで起こることもありますが、高齢の方では加齢による半月板の変性で損傷していることもあります。
治療は、損傷直後は適切な応急処置を行うことが大切で、その基本が「RICE処置」です。
これは安静(Rest)、冷却(Icing)、圧迫(Compression)、挙上(Elevation)の4つのことで、痛みや腫れの軽減に有効です。
その後は軽症であればテーピングや装具による装具療法で膝を固定し、安静にしていることで痛みなどの症状が治まる場合があります。
また症状によっては消炎鎮痛薬やヒアルロン酸の関節内注射による治療を行うこともあります。
運動療法などによるリハビリテーションも重要で、膝への負担を軽減するため、大腿四頭筋の筋力を増強していくトレーニングも行うようにします。
こうした保存療法では症状が改善しない、あるいは日常生活には支障はないが、本格的なスポーツへの復帰を目指している、といった場合は、手術療法を検討します。
手術療法としては、損傷した部分を縫い合わせる縫合術、損傷した部分を取り除く切除術などがあり、これらは基本的に関節鏡を用いて行われます。
スポーツへの復帰を目指す場合は、術後のリハビリテーションが非常に重要になります。
膝靱帯損傷
膝には前十字靱帯、後十字靱帯、内側側副靱帯、外側側副靱帯という4つの靱帯があり、これらを損傷してしまうのが膝靭帯損傷です。
スポーツにおける急激なストップやターンなどで膝を捻ることや、交通事故などで大きな外力が膝にかかることにより発症します。
損傷状態としては、完全断裂、部分断裂、一部損傷などがあり、状態によって膝の腫れ、内出血、痛み、関節のゆるみや不安定感などの症状が現れます。
受傷直後は応急処置として、安静(Rest)、冷却(Icing)、圧迫(Compression)、挙上(Elevation)を行うRICE療法が重要です。
その後は画像検査などを行い、靭帯の損傷の程度、半月板損傷や骨折の有無等を確認し、状態に合わせて治療を行っていきます。
損傷が軽度であれば保存療法として、テーピングやサポーターといった装具を利用しての装具療法を行い、損傷した部分を固定して膝への負担を軽減します。
状態にもよりますが、固定は数週間程度行います。
ただし固定している間も、可動域を維持するためのリハビリを行っていきます。
固定解除後は、膝の負担を軽減するための筋力トレーニングなどのリハビリを行っていくことが重要です。
主に前十字靭帯損傷や、複数の靭帯を損傷して膝関節の不安定性が強くなってしまっている場合、さらにスポーツへの復帰を目指す場合などにおいては手術を検討します。
手術では、断裂した腱を直接縫い合わせる方法や、患者様自身のほかの部位の腱を移植して再建する方法などがあります。
術後は段階的に目標を決め、リハビリテーションを行っていきます。
膝離断性骨軟骨炎
膝関節内の、主に大腿骨の軟骨とその下の骨が分離・壊死し、剥がれる疾患です。
進行すると、剥がれた骨軟骨片が関節遊離体(関節ねずみともいわれます)となって、関節内を動くようになります。
そうすると、痛みや腫れが強くなったり、膝を曲げ伸ばしする際に引っかかったり、関節内で異音が生じたり、ロッキング症状を引き起こす場合があります。
原因はまだよくわかっていませんが、10〜20代のスポーツをしている若年層に多く、成長期に膝へ繰り返し負荷がかかることで、血流が阻害され、骨が壊死することが原因と考えられています。
治療としては、患者様の年齢や骨軟骨片の状態によって異なります。
患者様が10歳前後で骨軟骨片が遊離していない状態であれば、松葉づえや装具の利用により膝関節に負担がかからないようにし、経過観察とします。
原因となった運動を休止し、安静にすることで、完全に治癒することもあります。
ただし運動制限は3~6カ月、場合によっては1年以上にわたることもあります。
13歳以降(思春期)の年齢に達していたり、骨癒合が長引いていたり、骨軟骨片が関節遊離体となってしまっているケースでは、手術が検討されます。
手術は主に関節鏡下で行われ、骨軟骨片を固定する整復固定術や、骨軟骨片が小さければ摘出する手術などがあります。
オスグッド病
成長期のお子様に多くみられる疾患で、脛骨粗面(膝下の骨の出っ張り部分)が、大腿四頭筋によって引っ張られ、炎症や隆起が起こる状態です。
お子様の場合、骨や軟骨がまだ成長段階にあり、脛骨粗面もまだ弱い状態です。
その時期にスポーツでジャンプやダッシュ、キックなど膝を伸ばす動作を繰り返すと、オスグッド病を発症しやすくなります。
なかでもサッカーやバレーボール、陸上競技などでよくみられます。
症状としては膝下の痛みや腫れ、圧痛、運動時痛、脛骨粗面の隆起などです。
片膝のみに症状が現れることが多く(両膝に現れることもありますが)、安静にすると痛みが和らぐ傾向にあります。
急に練習量を増やしたり、フォームが正しくなかったりすると発症のきっかけになります。
治療としては、まず安静にすること、膝の運動量を減らすことが大切です。
痛みが強い場合はアイシングを行い、消炎鎮痛薬を使用していきます。
さらにサポーターやテーピングで膝の負担を軽減するようにし、運動前には大腿四頭筋のストレッチなどで柔軟性を高めていくことが重要です。
成長期が終わると骨端軟骨板が閉鎖していくことで自然に治癒することも多いのですが膝の酷使を続けていると痛みが慢性化したり、その後も痛みが残ったりします。
膝関節捻挫
膝関節をひねる、ねじるなどの強い外力により、関節を支えている靱帯・関節包・筋腱が障害される外傷です。
X線検査で確認できる骨折や脱臼ではなく、骨以外の組織が損傷している状態を指します。
重度の捻挫では、靭帯損傷や半月板損傷を引き起こす場合もあります。
スポーツ競技中の激しいコンタクトや急な方向転換、ジャンプの着地時などに起こりやすく、さらに交通事故や日常での転倒などでも発症することがあります。
症状としては、膝関節に腫れや痛みが現れるのが一般的です。
ただし靭帯が損傷していても強い痛みがないことがあり、日常生活には支障をきたさない場合もありますが、将来的に問題を引き起こすこともありますので、靭帯や半月板の損傷の有無など、しっかりと検査をしておくことが重要です。
治療としては、受傷直後は「RICE処置(安静・冷却・圧迫・挙上)」を行うことが大切で、その後は軽度であれば装具により固定して安静にし、運動療法や物理療法などのリハビリテーションを行っていきます。
捻挫が重度で靭帯損傷や半月板損傷などを引き起こしている場合は、手術が必要になることもあります。