股関節の症状とは
股関節は、骨盤と大腿骨をつなぐ「球関節」で、人間の体の中でもっとも大きな関節の一つです。
歩く・立つ・座る・階段を上る・足を開くなど、下半身のあらゆる動作に関与しており、体重の負荷が集中するため、年齢や使い方によって障害を受けやすい部位でもあります。
構造的には、大腿骨の上端にある丸い骨頭と、骨盤側のくぼみ(臼蓋)がかみ合うことで安定した動きが可能になっています。
この関節の周囲には強靱な靭帯や軟骨、滑液包が存在し、滑らかな動きを支えています。
しかし、加齢や負荷の蓄積、血流障害、先天的な形成不全などによって、軟骨がすり減ったり骨が変形したりすることで、痛みや可動域の制限が生じてきます。
股関節の症状には、「足の付け根が痛い」「靴下を履きにくい」「長く歩けない」「関節が詰まるような違和感がある」といったものがあり、進行すると歩行困難や脚長差などの生活動作に支障をきたすこともあります。
当院では、股関節の動きや姿勢を診察し、X線などで状態を把握した上で、薬物療法・リハビリ・装具療法・注射・手術などを組み合わせ、患者様の生活の質を保ちながら症状の改善を目指します。
主な股関節の疾患
変形性股関節症
変形性股関節症は、股関節の軟骨がすり減ることによって関節に炎症や変形が起き、痛みや運動障害を引き起こす疾患です。
女性に多くみられますが、日本では発育性股関節形成不全といった発育障害があり、その後遺症で「もともと関節のかみ合わせが浅い方」に起こる二次性変形性股関節症が多く、全体の約8割にあたるとされています。
このほか、加齢や肥満、重い荷物を持つなどの重労働などによる関節の劣化によって引き起こされる一次性変形性股関節症や、二次性でも関節リウマチや骨粗鬆症、化膿性関節炎などの疾患や外傷によって引き起こされる変形性股関節症もあります。
初期には「歩き始めに足の付け根が痛い」「立ち上がると違和感がある」といった症状ですが、進行すると関節の可動域が狭くなり、靴下を履く・足の爪を切る・階段の上り下り・長時間の歩行などが困難になります。
さらに進行すると、立っていることもつらくなって家事などが困難になったり、夜間など安静時にも痛みが出るようになったりします。
治療としては、X線などで関節の隙間の狭まりや骨の変形を確認し、進行度に応じて治療方針を立てます。
初期のうちであれば保存療法として、安静にし、なるべく股関節に負担をかけないよう、肥満を解消するなど、負担を軽減するように生活習慣を改善していきます。
痛みに対しては消炎鎮痛薬(NSAIDs)や関節内へのヒアルロン酸注射などの薬物療法が行われます。
また杖の使用といった装具療法も股関節への負担や痛みの軽減には有効です。
このほか痛みに配慮しながら、股関節周囲の筋力強化(中殿筋・腸腰筋など)や骨盤の安定性を高める体幹の強化、柔軟性を高めるストレッチなどの運動療法を行うことも大切です。
保存療法で改善が十分でない場合では、関節温存手術(骨切り術)や人工股関節置換術(THA)といった手術療法が選択されます。
術後には早期離床を図り、可動域回復・段階的な筋力強化・歩行訓練を目的とした術後リハビリを実施します。
大腿骨頭壊死症
大腿骨の骨頭(関節面を構成する球状の部分)への血流が何らかの原因で途絶え、骨が壊死してしまう疾患です。
骨にも血液循環は必要なのですが、大腿骨頭は関節内に深く納まっていることもあり血管が少なく、血流障害を起こしやすい場所となっています。
発症初期は自覚症状が少ないこともありますが、進行すると骨が潰れて関節面が変形し、強い股関節の痛みや可動域制限、歩行障害を引き起こします。
大腿骨頭壊死症には、「特発性大腿骨頭壊死症」と「症候性大腿骨頭壊死症」に分かれます。
特発性大腿骨頭壊死症は、原因がよくわからないものですが、ステロイド薬の大量使用(女性に多い)や、アルコール多飲(男性に多い)に関連して引き起こされることが多いことがわかっています。
また症候性大腿骨頭壊死症は、骨折などの外傷や、大腿骨頭すべり症などの疾患、放射線照射による治療などによって血流障害が起き、発症するものです。
さらにダイビングなどの潜水をした際に、減圧によって組織や血液内に気泡が発生し、それが血管に詰まり血流障害を起こす「減圧症」によっても起こることが知られています。
診断には壊死の有無や範囲、変形状況を知るためにX線による画像検査を実施します。
ただし初期の場合は変化がわかりにくいこともあり、その場合はMRI検査を行います。
検査結果に応じて、治療方針が決定されます。
初期で壊死範囲が局所で小さく、関節面に変形がみられなければ、保存治療が選択されます。
その場合、体重を減らすなどして股関節にかかる荷重を減らし、さらに杖などによる装具療法で、股関節に負担がなるべくかからないようにします。
股関節に負担のかかるスポーツや仕事は控えるようにしますが、その一方、運動療法として、股関節の筋力を増強する訓練は行っていくようにします。
痛みがある場合は鎮痛薬を使用し、経過を観察していきます。
壊死範囲が広く、骨頭が圧壊していたり、痛みが強かったりする場合は、手術が検討されます。
手術には、自分の骨を生かしつつ、壊死した部分を体重がかからないところにずらす「骨切り術」と、「人工股関節全置換術(THA)」があります。
術後のリハビリでは、可動域訓練、筋力増強、歩行訓練、脱臼予防動作の指導等を実施し、早期社会復帰を目指します。