腰の症状とは
腰は、上半身と下半身をつなぐ要となる部位で、日常生活のあらゆる動きに関与しています。
整形外科的には「腰椎(ようつい)」と呼ばれる5つの骨が連なり、その間にクッションの役割を持つ椎間板があります。
さらに靭帯・筋肉・神経・血管が複雑に入り組んでおり、体を支えながらも前後左右に柔軟に動けるような仕組みになっています。
このように大きな負担がかかる構造のため、腰は障害が起きやすく、一時的な腰痛から慢性化した強い痛み、しびれ、歩行障害など、症状は多岐にわたります。
特に日本では、腰痛は国民病ともいえるほど多く、働く世代から高齢者まで幅広くみられる症状です。
当院では、問診・画像検査を通じて原因を特定し、薬物療法・注射・リハビリテーションなどを組み合わせ、機能回復と再発予防を目指した治療を行います。
主な腰の疾患
腰痛(特異的腰痛・非特異的腰痛)
「腰痛」とは、腰に痛みや重だるさを感じる状態の総称で、非常に多くの方が経験する症状です。
腰痛には原因がはっきりしている「特異的腰痛」と、明確な原因が特定できない「非特異的腰痛」があります。
前者には、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、骨粗鬆症(それによる圧迫骨折)、感染症(化膿性脊椎炎など)、腫瘍などが含まれます。
一方で、約80%は後者の「非特異的腰痛」です。
非特異的腰痛の場合、発症の経過によって「急性腰痛」と「慢性腰痛」に分けられます。
急性腰痛は、いわゆる「ぎっくり腰」のように突然強い痛みが出るもので、発症してから4週間以内のものを指します。
ぎっくり腰はいわゆる腰椎捻挫で、重いものを持ち上げたり、腰を捻ったりすることによって、腰の筋肉や関節の部分に障害が発生することが原因と考えられています。
その多くは筋膜や靭帯の損傷であり、重篤な疾患を除けば、ほとんどの場合、安静を保持し、薬物療法や理学療法などの治療を行うことで改善が期待できます。
一方、慢性腰痛は3カ月以上続く腰痛を指し、生活習慣、姿勢、心理的要因なども影響して治りにくくなります。
原因には、筋肉・靭帯の疲労、姿勢不良、肥満、生活習慣、「うつ」やストレス等の心理的要因などが複合的に関与していると考えられています。
治療としては、まず画像検査や血液検査などで重篤な病気を除外し、薬物療法(消炎鎮痛薬・筋弛緩薬など)を行いながら痛みを緩和します。
患部の安静を保つため、コルセットなどによる装具療法を行う場合もあります。
さらに、運動療法や物理療法などのリハビリテーションを通じて筋肉・関節・神経のバランスを整えることが中心となります。
リハビリでは、腰や骨盤周囲のストレッチ・コアマッスルの強化・姿勢矯正訓練に加え、生活動作の指導(物の持ち上げ方・座り方・歩き方など)を行うことで、再発予防につなげます。
腰椎椎間板ヘルニア
腰椎椎間板ヘルニアは、腰椎の間にあってクッションの役割を果たしている椎間板が後方に飛び出し、神経根や脊髄を圧迫することで、腰の痛み・下肢のしびれ・坐骨神経痛などを引き起こす病気です。
進行すると下肢の筋力低下や感覚障害、歩行障害、排尿障害が現れることもあります。
原因は、主に加齢による椎間板の変性、さらに重い荷物の持ち運びや長時間の座位、スポーツによる外傷・障害などが関係します。
まず画像検査で発生の位置や変形の状態などを確認します。
ヘルニアは特に、4番目の腰椎と5番目の腰椎の間にある椎間板で発生しやすいとされています。
リハビリでは、急性期には安静と疼痛緩和を重視し、コルセットによる装具療法を行う場合もあります。
痛みが落ち着いたら腹筋・背筋の筋力トレーニングといった腰回りの安定性を高める運動療法に移行します。
体幹の柔軟性向上・正しい姿勢・生活指導も合わせて行います。
こうした保存療法で症状が改善しない、足に感覚や運動の障害がある、膀胱直腸障害を引き起こしてしまっている、といった場合には、椎間板ヘルニアを取り除く手術が検討されます。
腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症は、加齢などにより腰の神経の通り道(脊柱管)が狭くなり、神経が圧迫され、様々な症状が現れる病気です。
過労のほか、強度の高いスポーツや労働作業、脊椎の疾患などが原因となることもあります。
特徴的な症状は「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」と呼ばれる歩行障害で、歩いていると足がしびれたり痛んだりして歩けなくなりますが、少し休むと再び歩けるようになるというものです。
腰の痛みよりもしびれや足の脱力が目立つことが多い場合もあります。
50歳以上の方に多く、脊柱管が狭くなる原因としては、変形性変化や椎間板の膨隆、靭帯(黄色靭帯)の肥厚などがあります。
リハビリでは、コルセットによる装具療法や、腰椎の前弯を軽減する姿勢矯正(前かがみ姿勢を保持する練習)、下肢・臀部・体幹の筋力強化を行います。
保存治療の効果がなく、間欠性跛行の距離が100m未満、下半身の麻痺や膀胱直腸障害が現れている、といった重症のケースでは、除圧術や固定術などの手術を検討します。
腰椎変性すべり症
腰椎変性すべり症は、加齢により椎間板や靭帯、関節が緩み、腰椎が前後にずれて神経を圧迫する病気です。
前方へのずれが多く、4番目の腰椎に起こりやすいとされています。
特に中高年の女性に多く、出産や筋力の低下も発症のリスクを高めます。
症状しては腰痛、下肢のしびれ、間欠性跛行など、脊柱管狭窄症に似た症状を呈し、痛みよりもしびれや足の脱力が目立つことが多い場合もあります。
リハビリでは、骨盤・体幹の安定性を高める運動療法、腰椎への負担を減らすための姿勢指導や歩行指導が中心となります。
腹筋・背筋・臀筋をバランスよく鍛えることで、腰椎の安定を取り戻し、症状の軽減と再発予防を図ります。
症状が改善されず、生活に支障をきたしたり、重症化したりした場合は、手術を検討します。
腰椎分離症、分離すべり症
スポーツを盛んに行う成長期のお子様によくみられるのが、腰椎分離症、分離すべり症です。
腰椎分離症は、腰椎の後方部分(椎弓)が疲労骨折し、骨が分離した状態を指します。
また、分離したことにより椎骨が主に前方にずれてしまうと「分離すべり症」と呼ばれます。
ジャンプや腰をねじるなどの激しい運動を、1回ではなく繰り返し行うことでひびが入り、さらに圧力が加わることで疲労骨折を起こすことにより発症します。
スポーツ選手の約3割が、腰椎分離症であるともいわれています。
特に、傾斜がきつく圧力がかかりやすい5番目の腰椎に発症しやすくなっています。
お子様の場合はスポーツを休止し、患部をコルセットなどで固定し、安静にすることで骨が癒合することが期待できます。
症状としては、当初、自覚症状が少ないこともありますが、腰や太もも、お尻に痛みやしびれが現れる場合があります。
特に腰を反らせたときに痛みが増すようになります。
これは、分離した箇所に骨が新しく作られ、それが神経に当たるためだと考えられています。
分離症があっても、多くの場合は強い痛みや日常生活の障害なく、生活できる場合がほとんどです。
しかし、年を取ってから腰痛を引き起こす原因となりますので、腹筋・背筋を強化して予防を心がけていくことが大切です。
日常生活で支障をきたしてしまうような場合は、神経の圧迫を除去する手術や固定術を検討します。
側弯症
側弯症は、背骨が左右に曲がり、ねじれを伴って変形している状態です。
側弯症には、小児期の健康診断や学校健診で発見されることが多い「特発性側弯症」が約8割を占めますが、ほかに筋肉や神経の病気から発症するものや、先天性側弯症があり、加齢による変性に伴う変性側弯症もあります。
特発性側弯症の原因はまだよくわかっていません。
近年では、特定の遺伝子が発症に関わっているとの報告もあります。
特発性側弯症は、男児に多く、発症年齢に応じて、3歳未満で発症する「乳幼児期側弯症」、3~10歳頃に発症する「学童期側弯症」、11歳以上で発症し、女子に多い「思春期側弯症」に分類されます。
側弯症を発症すると、肩の高さの違い、腰の左右差、胸の形の変形などが生じます。
背骨の曲がり方が軽度な場合、あまり自覚症状がないこともありますが、曲がりが強度になると、慢性的に腰や背中が痛んだり、心臓や肺の圧迫による呼吸機能などの低下が起こったりすることもあります。